2020年03月04日

1932年のカレンダー

その部屋には1932年のカレンダーが
一枚もめくられることなく飾られていた。

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20年ほど前のことだろうか。
ある日の夜、ミーティングが終わり、
皆でラーメンでも食べに行こうという話になった。
Yくんにも声をかけると、珍しく首を横に振った。

「明日朝、早く姫路に行かんとあかんのやって」

「そうなんや、何しに行くの?」

「うちの親戚の家が姫路にあって、古い家なんやけど、
もう何十年も空き家になってて、今度取り壊しになるので、
その打ち合わせでおかんと行かないとダメなんや」


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聞くところによると、Yくんのお母さんは、
若い頃に姫路に住んでいたらしく、
その家を解体するということだった。

築100年くらいらしく、
高校の美術の先生をしていたおじさんが
住んでいたが、もう何十年も空き家になっていて、
その間に泥棒が何度も入ったなんていう話を聞いた。

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たつやはその話を聞いて、
一緒に連れて行ってもらえないかと頼んだ。
そして翌日、早朝にトラックを借りて、
Yくんとお母さんとたつやの3人で姫路に向かった。

その古い家は日本建築の平屋の立派な建物で、
しかも別棟でワンルームの洋館があった。
庭から見るとその洋館は八角形のようなカタチをして、
外の壁は下見板張りの古い西洋建築を想い起こした。

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その部屋の壁にこの1932年のカレンダーがかけられていた。
美術の教師だったこの家の家主が、
画材などを買ったお店のオリジナルカレンダーだ。
表紙はさすがにボロボロになっていたが、
中をめくると、アーティスティックな女性のヌードが
線画で描かれていて、
その下部に月ごとに曜日がピンク色で印刷されていた。

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その部屋はまるでタイムマシンに乗って、
70年前に舞い戻ったかのようで、
そこだけが時計の針が止まったままだった。
裕福な家だったのか、本棚やサイドボード、
そして椅子と丸テーブルに至るまでが、
同じ木を使って作られていることに驚いた。
当時は既製品なんてなかっただろうから、
腕の立つ家具職人が作ったものだろう。
埃をはらってみると見事な木目が出てきた。

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泥棒が入ったとか、一時期浮浪者が住んでいたとかで、
確かに部屋は荒らされている感はあったが、
家具一式、柱時計、照明、スイッチ、窓枠、
ウイスキーの空き瓶やガラスのペン立て、
それに箱入りの戦前のブリキの玩具など・・・
たつやにとっては、まさにお宝の山だった。
出来ることならこの洋間、そのままを持ち帰りたい。

取り壊し予定のYくんのお母さんも、Yくんも
古いモノにはまったく興味がないようで、
わーわー感激して叫んでいるたつやを見て笑いながら、
好きなだけ持って行っていいよと言ってくれた。

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大きな本棚を開けると、
古い美術雑誌の全集などがびっしり詰まっていた。
数冊取り出してみると、出版日はカレンダーよりも
数年早いものばかりで、すべて昭和初期の本。
分厚い表紙がついた上製本で、この当時としては
極めて珍しいカラー印刷がされていた。
オフセット印刷がまだなかった時代のものなので、
おそらく石版印刷だろう。
本当はこれらも持って帰りたかったが、
重いし、置く場所を考えて数冊だけいただいて、
後は置いて帰ることになった。

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でもこれって欲しい人にとったらお宝だよな・・・
多少お金になればいいかと思い、
姫路の古本屋に連絡して、引き取りに来てもらうことにした。
しばらくしてきた古本屋の親父は、
そこにあった本のほどんどを段ボールの箱に詰めた。
たつやが持って帰ろうと思って横に置いておいた
ブリキの玩具を見て、
「これもいいですか?」と聞いてきた。
「いやいやこれは私のです!」と断ると、
とても残念そうな顔をした。
帰り際に「これ少ないですけど・・・」と言って、
Yくんに封筒を渡して帰っていった。

「いくら入ってるんやろ?」
と言ったYくんが、封筒を開けてみて、
大きな声をあげた。
「うそやろ!?5万も入ってる!」
3人ともビックリ!
よほど貴重な本があったに違いない。

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Yくんは、
「わーいわーい!これで焼肉行こ〜〜」
それまでは古い家の始末に仏頂面だったのに、
途端に満面の笑みを浮かべて飛び回り始めた。

結局、小さいトラックに乗るだけの家具や小物を
引き上げて、そのほとんどはたつやがもらった。
今でもあの洋館の夢を見ることがある。

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1932年、昭和7年ってどんな年だったのだろうか。
たつやの両親は奇しくも1932年、昭和7年生まれ。

大正浪漫を過ごしたであろうこの家の美術教師は、
どんな生活をしていたのだろう?
たつやが想像するよりも遥かに文化的な生活をして、
精神的にも成熟した時代だったのではないだろうか。

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今でもそのカレンダーを眺め、当時を想像してみる。
月めくりのデッサンも実にいいじゃありませんか!?









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posted by たつたつ・たつや at 21:26| Comment(2) | アンティーク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする